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【分析】萩生田文科相の「教員・国家公務員」発言から見えるズレと狙い

第32回 学校と教員に何が起こっているのか -教育現場の働き方改革を追う-

■文科相発言から見える認識のズレと狙い

 それにも関わらず、萩生田文科相は「国家公務員」にこだわっているようなのだ。そして、それは単なる「思いつき」ではない。講演翌日の閣議後記者会見でも、「これからの教師像をしっかり見極めていきたい。そんな思いで発言した」と前日の発言を肯定している。さらに6月19日の閣議後記者会見でも質問されると、「あくまで私見という前置きを置いたうえでの提案をさせていただきました」と述べている。「私見」を強調しながらも「提案」としているのだ。
 そして、その理由を「この厳しい状況のなかで子どもたちの『学びの保障』に全力で取り組んでいただいている教育現場の先生方の皆さんをですね、ぜひ応援したいという思いから」と説明している。

 国家公務員にすることが「応援」なのだろうか。同会見で文科相は次のようにも語っている。

「私のところに、土曜授業や夏休みの短縮でクレームなど送ってくる教員というのは皆無です。そのくらい皆さんが真剣にこの事態を乗り越えなきゃいけないということで各学校や各自治体でさまざまな取り組みをしていることに対して、私、心からの敬意と感謝を申し上げたいと思います」

 自分へのクレームが皆無だったということを、教員が新型コロナで生じた事態を真剣に乗り越えようとしていることの証だと言うのだ。しかし、それはちょっとおかしい。それだと「クレームをつける教員は真剣ではない」ということになってしまうではないか。

 教員が真剣に対応しているのは事実である。かといって、土曜授業や夏休み短縮に疑問を持っていないわけではい。土曜授業や夏休み短縮が子どもたちにとって大きな負担になると疑問視する声は、教員からも上がっている。それがクレームとして萩生田文科相に届かないのは、そういうシステムになっていないからにすぎない。「大臣への意見をお寄せください」と、文科省も言ったりしない。教員には、文科相にクレームを申し入れるという発想も実行力も、時間もないのである。

 萩生田文科相は、教員からのクレームがなかったことを強調し、「感謝」を口にした次には、次のように続けている。

「しかしながら、今年は緊急事態だからみんな頑張っていただけるのでしょうけれど、じゃあこういう働き方でいいのだということになってはならないと思います」

 教員がクレームもつけずに頑張っているのは「緊急事態だから」というわけだ。「教員が緊急事態には頑張る、緊急事態でなくても頑張るようにするには、働き方を変える必要がある」というのが彼の理屈である。そして、その方法が教員を国家公務員にするということらしい。

 教員が国家公務員になれば、大きく変わることがある。それは人事権だ。現在は地方公務員なので、教員の人事権は各自治体の教育委員会にある。しかし、国家公務員になれば、国が人事権を持つことになる
 これは重大な問題である。組織において、人事権を持つ人間が言うことは、基本的に受け入れなければならない。クレームをつけない、いや、つけられないシステムは、さらに強化されることになる。文科省が教員をコントロールできるようになる。

 萩生田文科相の「教員を国家公務員に」発言は、実は、そんなところに狙いがあるのかもしれない。教員が「考える力」を発揮する場面なのかもしれない。

 

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前屋 毅

まえや つよし

フリージャーナリスト。1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。『週刊ポスト』記者などを経てフリーに。教育問題と経済問題をテーマにしている。最新刊は『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、その他に『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『グローバルスタンダードという妖怪』『日本の小さな大企業』などがある。


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